DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー・ブログ
幸福を測る指標と政策
4月16日、経団連の研究機関である21世紀政策研究所は、「グローバルJAPAN ―2050年 シミュレーションと総合戦略」というリポートを発表しました。これによると、2050年の日本は先進国から転落する(日本のGDP〔国内総生産〕はインドに抜かれ、日本の存在感は著しく低下する)可能性があり、いままさに我々は危機に面しているといいます。
日本が中国に抜かれたときもそうでしたが、このGDPの世界ランクの低下に、私たちは強く危機感を覚える傾向があります。それは、長年、国家の成功の尺度として、GDP(かつてはGNP〔国民総生産〕)が用いられてきたこと、そして戦後の日本においては、経済成長が国民の幸福感を満たすという考えが根強いためでしょう。
そんな中、この世界第一の経済指標であるGDPに対して批判が高まりつつあります。今号の「幸福の経済学」は以下の三つの批判を掲げ、国力を測る別の基準の必要性を述べ提示しています。
(1)GDPはそれ自体欠陥のある指標である
(2)持続可能性や持続性を考慮に入れていない
(3)進歩と開発の測定には、別の指標のほうが優れている場合がある
では、GDPではない、別の指標とは何か。論稿は、ブータンでおなじみの国民総幸福量など、いくつかの指標を紹介しています。中でも多くのページを割いているのは、HDI(人間開発指数)というものです。これは、国連機関の一つ、UNDP(国連開発計画)が提唱する指標で、生活の質に関する三つの基本的要素「健康・寿命」「教育」「所得」をもとに数値を算出します。HDIを用いると、2011年の世界ランク1位はノルウェーで、GDPトップのアメリカは4位(国内の不平等の程度を加味した調整ランキングでは23位)になります。日本は10位内にはランクインできませんでしたが、リポートによると12位につけているようです。
ただし、何をもって幸福を感じるのかというと、それは人それぞれであります。HDIに対しても、先に述べた三つの要素でよいのかという意見もあるでしょう。そこで、UNDPのサイトには、 DIY HDI: Build Your Own Index という、自分自身で基準を定め、ランキングを作成するページも用意されています。論稿では触れていませんが、所得や教育では上位に食い込めない日本でも、基準を「健康・寿命」のみに設定すると、世界第1位になります。「長生きできる社会」という観点では、日本は最高の国なのです(私たち日本人は超高齢社会という課題解決に頭を悩ませているのですが……)。この論稿を読むと何が幸福か不幸か、絶対的な基準はないことを改めて知らされます。東洋には、「塞翁が馬」という言葉があり、西洋(新約聖書)には、「悲しむ人々は、幸いである」という言葉があります。どんなひどい状況に置かれても、幸いはどこにでもあるものです。
最後に一つ。この論稿はGDPへの批判を載せていますが、GDPを全面的に否定しているわけではありませんし、今でもGDPはマクロ的な経済政策を推し進めていく上で、なくてはならない指標であることに変わりはありません。もちろん、日本が先進国から脱落しないように、国家を挙げて手を打つことは欠かせないことです。そのうえで申し上げるなら、この論稿が示すように、GDPの代替案に関する議論が進めば、今後新しい指標が経済政策に少なからず影響を及ぼすことも考えられます。
ただし、先に触れた通り、基準により国力や幸福度の測り方は大きく異なります。その中で、今後の変化に備えるには、この論稿で示すさまざまな指標とその考え方を知っておくことが必要なのは言うまでもありません。さらに考えるなら、基準によっては日本も繁栄の上位国であることに目を向け、日本の良さを活用してビジネスの機会を見出すといった前向きな生き方が、意外と成功の近道の一つになるような気がします。(編集部)
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