2012年3月4日日曜日

ソーシャル・パブリッシングとは何か:共有即出版

ソーシャル・パブリッシングとは何か:共有即出版

本誌のスタンスは、出版とは情報を共有可能なものとすることが基本、ということ。何を売りたいのか、情報を普及させたいのか、本かチラシか、文学かマンガかなどはすべて二次的なことと考える。デジタル時代はそれを常識としないと判断を誤る。出版はWeb時代のビジネスのメタモデルとも言えるものだ。個別のビジネスモデルは、そこからいくらでも生まれてくる。今回取上げる「ドキュメント・リポジトリ」あるいは「ソーシャル・パブリッシング」サービスもその一つだ。

情報共有は出版の第一歩

Webサービス、ファイル共有、流通プラットフォーム、ソーシャルネットワーキング…。これらはすべて「出版」と関係があり、それをサポートするビジネスとして構成することが可能だ。ドキュメント・リポジトリ(文書共有)サービスは無数に存在する。その中で Scribd とDocstoc が突出しているのは、「共有」を「出版」あるいは「ソーシャル・パブリッシング」と読み替え、そのためのUI/UXを実現したことだろう。情報共有は出版の第一歩なのである。

  1. <特定少数→特定多数→不特定多数>という対象のスケール
  2. 1対n/n対nといったコミュニケーションのトポロジー、そして
  3. 無料/有料という対価の有無
  4. メッセージ/広告/情報商品という区別
  5. コピーライト/コピーレフトなどの権利関係

これらは、Webにあっては、たんなるドキュメントのプロパティにすぎないので、簡単にスイッチできる。同じサービスで扱えない理由はない。スイッチできる点が重要で、そこにコンテクストが発生し、巨大な可能性が秘められている。

ソーシャル・パブリッシングは、WordやPowerPoint、PDFなどのファイルをフラッシュに変換し、コードのエンベッドによってオンラインで閲覧できるほか、ダウンロード、コメント、ブックマークなどができるようにしたものだ。YouTubeのドキュメント版と呼ばれることもあるが、YouTubeがほとんどファイル共有で終始している印象なのに対して、ドキュメントのソーシャル・パブリッシングは、ドキュメントのコンテクストに対応したSNS機能が、ユーザーにとっても、またビジネスモデルとしても重要となる。


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Scribd: "Reading is better when it's social"

Scribdは、弱冠23歳のトリップ・アドラー (John R. Adler III)が2007年、サンフランシスコで創業した。パロアルト生まれながらハーヴァード大学で生物物理学を専攻。サーフィンやサキソフォン、ゴーカートなどにも非凡な才能を発揮した彼が Scribdの着想を得たのは学生時代、著名な神経外科医の父親との会話の中であったらしい。学術論文の出版の難しさを知った彼は、文書共有サービスのアイデアを実現するために共同創立者の2人とともにケンブリッジ市にある Y Combinator を訪ね、支援の獲得に成功する。サービスの立上げは2007年だが、使い勝手のよさからすぐにトラフィックが上昇。2008年にはソーシャルメディアのトップ20にランクされる。

2009年には、Scribd Storeを立ち上げてコンテンツ販売に乗り出した。セルフ出版以外に、サイモン&シュスター社やワイリー社などの大手商業出版社の本も扱う。アマゾンなどと同じく、マルチプラットフォームのサポートを志向し、PCやスマートフォン、E-Readerでも利用できる環境を開発している。ちなみに、ScribdやDocstocの販売コミッションは20%ほどであり、他のオンラインストアよりも安い。Scribdは、フォードやマイクロソフトなど大手企業や自治体を顧客に獲得することに成功しており、同種のサービスの中では最も成功していると言えるだろう。機能的にみると、コミュニティによる文書共有、つまりソーシャル性のサポートとしっかりした文書管理がよくできている。文書共有は当然、海賊版、反社会的出版物の巣窟となるリスクがあり、評判を落と� �ば企業は利用しない。Scribdの成功は、公的教育機関などよいコミュニティが安心して使える環境(ユーザー体験)を実現したことによるものだろう。これは最も難しい点だと思う。同社によれば、毎月5,000万人が利用し、ドキュメントリーダも毎月1,000万回ダウンロードされている。


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Docstoc: Document Resources for Small Business and Professionals

Docstocも2007年、Scribdとほぼ同時期にサンタモニカでベンチャー資金を得てスタートした。創業したのは、ジェイソン・ナザー (Jayson Nazar=写真)とアロン・シュウォーツ (Alon Schwartz)の二人。Docstocの特徴は、プロフェッショナル・ドキュメントと呼ばれる専門性の高い企業、コンサルタントの出版物にフォーカスしていることだ。中心的には、法務、経営、金融、テクノロジー、教育、クリエイティブなどの分野となる。ドキュメントは容易に検索でき、無料でダウンロードできる。米国ではブログはプロフェッショナルが使用することが多く、有力なビジネスメディアとなっているが、そうしたビジネスブログや主流メディアのサイトがエンベッド・コードを貼って閲覧可能にするというスタイルは、Docstocが普及させたと言われている。

様々な分野の専門家と彼らの知見を必要とするクライアントは、LinkedInなどのSNSがターゲットとするコミュニティでもある。もちろんドキュメントの販売も行っている。例えば、DocStoreでE-Bookを検索すると、"eBook-Blogger Relations by Brian Solis" などのパンフレットが並んでいる。これは90ページで$4.95(viewが17,897とある)。これまでプロフェッショナルが不特定多数に知名度を上げるためには、メディアで露出したり、本を出したりする必要があり、容易ではなかった。DocStoreを使えば、無料の会社案内的なものと、有料の小冊子、ある程度高額のレポートまで一括してアップロードして使い、内容を更新することができる。有料のものを無料にスイッチすることもできる。

文書共有を出版支援に変えるのは「社会」性

日本にも文書共有サービスは存在する。しかし「ソーシャル・パブリッシング」ということが意識されているようには思えない。文書管理も弱く、なにより技術からアダルトまでなんでも扱ってしまうところが最悪だ。誰のために何を手伝いたいのかがまったく不明になるからだ(E-Bookもそうだが、エロ本は別の「書店」に収納しないと、トップページで多くの人が逃げ出してしまう)。


トップDSSサイト

ブログが社会性を喪失した「自分メディア」となり、Twitterのショートメッセージングも「メッセージ」性を喪失した「つぶやき」となったように、どうも欧米的ソーシャルネットワーキングは日本では「世間」の壁を越えられないようでもある。しかし、「ソーシャル・パブリッシング」はなんらかの社会性を意識し、それに対する価値を訴求するものでなければ成立は困難だ。ScribdもDocstocも、プロフェッショナリズムをベースとすることでドキュメントの品質と社会性を確保している。プロフェッショナリズムというのは、専門的知識・技能を有しているだけでなく、組織から自立し、職業的倫理や説明責任を個人として全うすることを求める思想である(ジャーナリズムは、報道におけるプロフェッショナリズム)。現代社会はプ� �フェッショナリズムが育たないとまともに機能しない。。

AcquiaのBryan Houseによるイメージ

Scribdのようなサービスは、出版社にとって魅力的だろうか。米国の大手出版社が関心を持つのは、Scribdのユーザーとソーシャルネットワーキングの力に注目しているからである。例えば、口コミ(バイラル)はプロフェッショナルを通した場合に最も効果が高く、また有効な情報が得られる。彼らは著者でもあるからだ。出版社はたんに本を売るだけでなく、Scribdを通じてハイレベルな読者のコミュニティにアクセスできる。彼らがどんな本を求め、また書きたがっているかを知ることができる。生きた知識情報は、人を介してネットワークを形成しているが、その重要なノードと常時コンタクトできるわけである。これまで有能な編集者は、自分の足と目と耳でノードを開拓していったが、そうした編集者は減ってきた。今日 の編集者の多くは「開拓」することを嫌うし、見知らぬ人間とコミュニケーションをとる術も知らない。だからソーシャル・パブリッシングのサービスは、彼らが職業的原点(編集者としてのプロフェッショナリズム)に変えることを支援すると言うこともできる。過去の偉大な出版人たちの片鱗にでも触れることができるように思える。


ソーシャル・パブリッシングは、著者と読者が直接結びつくことを支援する。知識情報を発信する行為の延長として本の出版、販売がある。これが成立するのは著者と読者の関係が最も近い世界だが、いったん成立すれば増殖を始めるだろう。出版社はここでも「中抜き」を怖れるのだろうか。個々の著者を「一本釣り」してタレントに(あるいはタレントを著者として)「育て」、その関係を「大事にする」という。芸能プロダクション的幻想に浸っていたいのだろうか。ともあれ、ひたすら中抜きを心配する「大手」以外の出版社/出版者は別として、出版の社会的役割を自覚した出版社は、ソーシャル・パブリッシングの環境の中に飛び込んで、その同人誌的アマチュア性に対して堂々と出版のプロフェッショナリズムの価値を納� ��させ、ハイレベルな著者と読者のコミュニティを開拓していくことができるだろう。

文書共有は、環境さえあれば誰でもできる。しかし、たんなる共有を出版につなげるためには、情報のプレゼンテーションをサポートし、コンテクストが形成できるようなプラットフォームを整備する必要がある。ScribdやDocstocは、PDFやPowerPointをフラッシュに変える以上のことをやって成功している。それは「本家」のYouTube以上とも言える。YouTubeは、プレゼンテーションはよく出来ているが、コンテクストの整理でいまだに苦労している。だから巨費を投入し、ユーザーに巨大な利益をもたらしているにもかかわらず、利益を上げることに成功していない。数多の天才・秀才を集めたGoogleにさえ、コンテクストのビジネス化は難しい。トリップ・アドラー青年は、父親との会話からコンテクストのアーキテクチャを発見した。だからWebは 楽しい。(鎌田、04/16/2010)



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